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恋に似た不思議な感情の芽生え

彼女と初めて会ったのはとある居酒屋で一人で飲んでいるときだった。
席が一杯で、カウンターの席を詰めて座っていたときたまたま彼女が隣の席に座っていたのだった。

いつもだったら隣の席の人にやたらと声をかけることはしないのだが、一口飲むごとに聞こえてくるため息。コップを置くときに少し怒っている感じの強めの音。
周りはワイワイ楽しそうに飲んでいるのに、私と彼女の2席だけが静寂に包まれているような感じの中、私は無意識に彼女に声をかけていた。
『やけ酒ですか?』彼女はフッと微笑んだまま何も言わなかった。でも、カシスオレンジのショットを私にご馳走してくれたのだ。

このときは何にも感じなかった。お酒をおごってもらうことで、愚痴でも聞かされるのかと思いつつ、彼女が話し始めるのを待つと、ちょうど彼女の旦那さんから連絡が来たらしく、彼女は急ぎ気味に紙に携帯番号を書いて私に手渡してきた。『また良かったらここで会いましょう』その一言だけ残して彼女はお店の外に出て行ってしまった。
いつもならあんな出会いはすぐ忘れてしまうはずだ。私自身、彼女から連絡が来ることも自分から連絡することも全然期待はしておらず、その日は私も家に帰った。
それから2週間程たったある日、知らない番号から4回着信があることに気づき仕事帰りにかけてみると、あの時居酒屋で一緒に飲んだ彼女からだった。

忘れかけていた存在だったはずなのに、不思議と私の声はいつにも増して高まっていた。そして、再びあの居酒屋で会うことになったのだ。
二回目となれば、もう必然的な出会いだ。あの時聞けなかった名前、何であの時あんなにやけ酒をしていたのか、全て聞くことができた。

初めて会ったときから、既婚者だということは何となく感じていたが、やはり旦那さんとの価値観のずれがあのやけ酒を引き起こしたらしい。
私はせめて、この間お酒をご馳走になったお礼にと話を聞くことにした。『じゃあ、家に来る?』僕はドキッとした。しかし既婚者の彼女が私をそういう目では見ていないだろうと思い、軽い気持ちで家に上がることになった。

話を聞くといろいろ大変なことがわかって、人生経験の浅い私から言ってあげられる事などなかったが、この時私は本音を言うことができた。
『あなたみたいな奥さんが欲しい』と。なぜか私はこの先も彼女の人生の支えになりたいと感じていた。

酔いながら私は、彼女のおでこにキスをして、そのまま帰った。夫婦仲を荒らすこと望んでなかったし、何より今の生活が彼女の一番の幸せだと感じたから。

あのときの私の感情は、恋に似た愛のようなものだったのかもしれない。今も陰ながら彼女の幸せを願っている。